嘘は溺愛のはじまり
伊吹さんのお母様とふたりっきりでお話したら、私があたふたしてしまってボロを出しそうってことかな。
確かにそれはあり得るかも知れない。
私はほぼ定時で帰宅して土日もしっかりお休みをいただいているけど、伊吹さんの帰宅はかなり遅い事も多いし、土日も取引先との会合があったり出張があったりして留守な事も多いという。
不意にお母様が尋ねて来た時に、私が何かミスをしてしまう可能性は高い。
「結麻さん、提案があります」
「はい、何でしょう?」
「プライベートの間は恋人らしく過ごしませんか? そうすればきっと短時間で恋人同士の演技が身につくと思うんだけどな。……どう?」
ふわりと微笑んで、私の目をじっと見つめる伊吹さん。
どこまでも美しく、ただ微笑むだけでもなぜか妖艶で、私は思わずボーッと見惚れてしまう。
気がついたら私は無意識にコクリと首を縦に振っていた。