嘘は溺愛のはじまり



「はい、どうぞ」


……きゅんっ――。




招待券をいただいた郊外のテーマパークへ伊吹さんの運転する車でやって来たのだけれど……。

昨日の“決してキュンとしたりしない宣言”は、早くも破られました……。

目的地であるテーマパークに着くなり、車から降りようとすると「あ、降りるのはちょっと待って下さい」と言われ、何事かと思えば……。

車から降りた伊吹さんが助手席のドアを開けてくれて手をスッと差し出し、先ほどの台詞……。


「ありがとうございます……」


差し出された伊吹さんの手に恐る恐る自分の手を乗せると、優しく手を取った伊吹さんがスマートにエスコートしてくれた。


伊吹さんが完全に王子様にしか見えなくて、だったら私は灰かぶり姫かな、なんて考えたりする。

だけどおとぎ話のお姫様と決定的に違うのは、私は決してに王子様とハッピーエンドになんかにはなれない、ってこと。

でも、いまこの瞬間だけはほんのちょっとだけ、お姫様気分でも、いいよね……?

なんて、そんな風に思ってしまう……。

本当はそんなこと、ダメに決まってるのに……。

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