嘘は溺愛のはじまり
と言うわけで、私は二週間ぶりに、カフェ『infinity』に足を運んだ。
店の扉を開け、店内に足を踏み入れると同時に、マスターから「結麻さん!」と声がかかる。
「こんばんは、ご無沙汰してます」
「いらっしゃい! 元気でしたか?」
「はい、おかげさまで」
「ああ、どうぞこちらに座って下さい。仕事は慣れましたか?」
「はい、なんとか。あの、その節はお仕事を紹介していただき、ありがとうございました。お礼に伺うのが遅くなってしまって、申し訳ありません」
本当ならもっと早くお礼を言いに来ようと思っていたんだけど、なかなか来られなくて、礼を失してしまったと思う。
座らずに頭を下げる私に、「あはは、大丈夫です、事情は大体分かってますから。まぁ座って下さい」と笑った。
マスターは本当に寛大な方だ。
「どうせ伊吹くんが結麻さんを独占してるんだろうと思ってたから、大丈夫ですよ」
「えっ。いえ、独占とかでは、ないと思うんですけど……」
「そう? でも、なるべく早く帰ろうとするでしょ? 結麻さんの夕飯目当てに」
「そう言えば、お帰りは案外早いですね」
「彼は今日はまだ仕事?」
「はい。取引先の方との会食なんです」
「残念がってたでしょ」
「うーん、どう、かな……」