嘘は溺愛のはじまり
今朝家を出る時、「結麻さんの手料理の方が百倍ぐらい美味しいんですけどね」なんて言われたけど、私は言葉通り受け取っているわけではない。
どう考えたって、レストランや料亭で出される料理より私の家庭料理の方が上なわけがないから。
そこまで話して、昨日買ったお土産をマスターに渡すのを忘れていたことを思い出した。
マスターに手渡すと、お土産について多くを語らない私を見て、にっこりと笑った。
「……楽しかったですか? デート」
「えっ? あ、あの、えっと」
「伊吹くんと行ったんでしょ?」
「えっと、まぁ、はい……」
「あ、そうだ。結麻さん、今日の夕飯は? 帰ってから作るの?」
急に話題が変わってびっくりしてる私に、マスターは笑顔を崩さずに言葉を続けた。
「夕飯まだだったら、何か作るからここで食べて帰りませんか?」
「えっ? でも、夜はフード類は出してませんよね……?」
「確かに夜のメニューにはケーキとか甘いものしかないけど、……実はいま、裏で昼のスタッフが新しいランチの試作をしてて。彼に何か作らせるから、食べて行って下さい」
「でも、試作って事は、その方もお仕事中ですよね?」
「彼の場合は趣味の延長だから、大丈夫です」