嘘は溺愛のはじまり
「僕の知り合いに、何か仕事の口がないか聞いてみましょうか?」
マスターの声に、ハッと顔を上げる。
とってもありがたい申し出だけど、私は首を左右に振った。
「ありがとうございます、でも、大丈夫です。自分でなんとかします」
「ですが、不景気ですし、ほぼ同時に住むところもなくなるとなると……」
確かに、マスターの言う通りなんだけど……。
でも仕事は自分で探さなきゃいけない。
もし万が一、紹介して頂いた先で私があまりにも使い物にならなかったら、先方にもマスターにも迷惑がかかるわけだし。
「確約は出来ませんけど、人材を探していそうなひとを一人、知っています。一度あたってみます」
「いえ、マスターにも、その方にも、ご迷惑をおかけするわけには、」
「大丈夫です、聞いてみるだけです。それに僕は迷惑じゃないから本当に大丈夫ですよ」
そう押し切られて、結局私の携帯の連絡先を教えることになった。
良い返事をいただければ、マスターから私に連絡してくれるらしい。
もちろん、自分でもちゃんと探そうと思っている。
でも、マスターの厚意も本当に、本当に嬉しい。
私は丁重にお礼を言って、カフェを後にした――。