嘘は溺愛のはじまり

暖かい風を、伊吹さんが無言で操る。

私は、優しい手つきで私の髪を乾かしてくれる伊吹さんを鏡越しにそっと窺った。

瞼が腫れた酷い顔の私とは真逆の、整っていて綺麗な顔の伊吹さん。

一緒に鏡に映るのが思わず恥ずかしくなるほどの差……。


何も言わずに髪を乾かしていた伊吹さんがドライヤーを止めて、鏡越しに私へと視線を向ける。

恥ずかしさで私が俯いてしまうまでの、ほんの一瞬だけ絡んだ視線に、私は胸が痛くなった。


「はい、乾いたよ」

「ありがとうございます……」


伊吹さんに触れられるのは、手を繋ぐこと以外は初めてで、しかも髪を乾かしてもらうなんて……。


「あの、お仕事で疲れてるのに、ごめんなさい……」

「気にしないで。役得だったから」


やく、とく……?

伊吹さんの言葉の真意が私には全然分からなくて、私は俯かせていた顔を少し上げて再び伊吹さんの表情を窺った。

伊吹さんの瞳は鏡の中の私をじっと捉えていて、静かに微笑んでいる。

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