嘘は溺愛のはじまり

それから二週間ほど経った、ある朝のこと――。

いつも通りの時間に起きて、お弁当を作って、朝食の用意をする。

伊吹さんが起きてきて、一緒に朝食を食べる。

同居を始めてからの、私の朝の日常――、今日もいつも通りの朝だ。


「では、行ってきます」


出勤するのは、いつも私の方が少しだけ先。


「あぁ、結麻さん。連日で申し訳ないですけど、今日も夕飯は必要ないです」

「分かりました」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「はい、行ってきます」


――いつも通りの朝。

そして、今日もいつも通りの夜を迎え、一日を終える。



……はず、だった。



「結麻さん、ただいま」


帰宅した伊吹さんを玄関まで迎えに行くと、伊吹さんは優しい笑顔で佇んでいた。


「おかえりなさい」


伊吹さんの表情が、いつもよりずっと嬉しそうに微笑んでいるように見えるのは、気のせいだろうか。

いや、いつ見ても、とっても綺麗な顔なのには変わりはないのだけど。


「結麻さん、これ……」


そう言いながら、手にしていた大きな紙袋から取り出したものを、私へと差し出した。

それは、とても綺麗な花々で作られた花束で……。

< 84 / 248 >

この作品をシェア

pagetop