嘘は溺愛のはじまり
「一ヶ月の記念に」
「一ヶ月……?」
「仕事も、同居も、今日でちょうど一ヶ月だから」
「……ああ、そう、言えば、そうでしたね」
いつも通り、だと思っていた。
特に何も変わらない一日だと。
私は、とんだ勘違いをしていた。
差し出された花束を、手が震えていることに気付かれないように、そっと受け取る。
「綺麗、です。……これを、私に……?」
「もちろん、結麻さんに」
「ありがとうございます、……うれしい、です」
お互いのことを教えあった時に、たしかに、好きな色の話をした。
昔は水色が好きだったけど、大人になったいまはオレンジや黄色などの明るい色の方が好きになった、と言ったはずだ。
それを覚えていてくれたのだろう、手渡された花束は、私の好きな明るいビタミンカラーの花で彩られている。
「えっと、お花が元気なうちに、生けてきますね」
じわりと涙が滲んでくるのをなんとか零さないように堪え、努めて笑顔でそう言えば、伊吹さんは優しく頷いた。
……私は、うまく取り繕えただろうか。
うれし涙――そう、捉えて貰えただろうか……。
ぽろり、こぼれ落ちる涙が、明るく咲き誇る可愛い花びらに、ぽたりと落ちる。
好きな男性から花を貰うなんて、女性にとっては嬉しいことに決まってる。
それなのに、こんなにも胸が苦しくなるなんて、誰が想像できるだろう?
だって……。