嘘は溺愛のはじまり
篠宮商事で働くようになって1ヶ月と少し。
仕事に慣れると共に、改めて、先輩の野村さんの凄さを思い知る。
いま私がやっている仕事は、元々は野村さんがひとりでこなしていた仕事で。
いま野村さんがやってるものも、私のものも、両方ひとりでやってたって事でしょ?
一部は総務部や人事部なんかで分担してくれていた部分もあるらしいけど、それを差し引いてもかなり膨大な仕事量だ。
『デートしてる暇がなくて、男が何人も去って行ったわー』
野村さんの口から何度か聞いたことのあるこの台詞が、彼女の仕事量の膨大さを物語っている。
私が半分――いまはまだ半分以下だと思うけど――譲り受けることで野村さんの負担が軽減して、彼氏さんとたくさんデート出来るようになると良いな。
「じゃあ若月ちゃん、お先ー」
「はい。お疲れ様でした」
「若月ちゃんもそれ適当にして、帰りなよー。今日はノー残業デーだからね!」
「はい、もう片付けます。気を付けて帰って下さいね。野村さん美人だから心配です」
「えー、私は若月ちゃんの方が心配よー。可愛すぎちゃってぇ。私の彼女にならなーい?」
「もう、野村さんっ」
「あはは、お疲れさまー」