嘘は溺愛のはじまり

私たちは駅近くにある小綺麗な居酒屋に入り、まずはビールで乾杯をした。


「お疲れ様」

「お疲れ様、です」


ビールジョッキを控えめにカチリと合わせ、ゴクゴクとビールを喉に流し込む奥瀬くんを見ながら、私も少しだけ黄金色の飲み物を飲み込む。

ビールを飲むのは久しぶりで……と言うか、アルコール自体とても久しぶりで、ほんの少しだけでも酔いそうな気がしてしまう。


「敬語」

「……え?」

「会社ではともかく、外では敬語いらないだろ」

「あ、うん……」


同級生に敬語を使うのは、確かに変だ。

でも会社での奥瀬くんは先輩だし、それに……。


「社外で俺に敬語で話したら、罰ゲームにしようかな」

「ええ?」

「嫌なら普通に話せばいいんじゃない?」

「う、ん……分かった」


不敵に微笑む奥瀬くんが憎らしい。

……うっかり敬語で話してしまったら、どんな罰ゲームをさせられるんだろう。


「仕事は順調?」

「あ、うん、なんとか。細かい仕事が多くて、野村さんの仕事っぷりに驚かされてばっかり」

「あの人は超人だよ。営業部も狙ってるって話もあるぐらいだから」

「営業部……。野村さんならすぐにトップに上り詰めそう、だね」

「……いま、敬語出そうになった?」


私の語尾に違和感を抱いた奥瀬くんが、笑いながら意地悪そうな顔で私を見ている。


「……出なかったもん」

「あはは、出なかったな。残念」

「……意地悪」

「敬語にならなきゃいいだけだろ?」

「そうだけど……」

< 94 / 248 >

この作品をシェア

pagetop