嘘は溺愛のはじまり
私たちは駅近くにある小綺麗な居酒屋に入り、まずはビールで乾杯をした。
「お疲れ様」
「お疲れ様、です」
ビールジョッキを控えめにカチリと合わせ、ゴクゴクとビールを喉に流し込む奥瀬くんを見ながら、私も少しだけ黄金色の飲み物を飲み込む。
ビールを飲むのは久しぶりで……と言うか、アルコール自体とても久しぶりで、ほんの少しだけでも酔いそうな気がしてしまう。
「敬語」
「……え?」
「会社ではともかく、外では敬語いらないだろ」
「あ、うん……」
同級生に敬語を使うのは、確かに変だ。
でも会社での奥瀬くんは先輩だし、それに……。
「社外で俺に敬語で話したら、罰ゲームにしようかな」
「ええ?」
「嫌なら普通に話せばいいんじゃない?」
「う、ん……分かった」
不敵に微笑む奥瀬くんが憎らしい。
……うっかり敬語で話してしまったら、どんな罰ゲームをさせられるんだろう。
「仕事は順調?」
「あ、うん、なんとか。細かい仕事が多くて、野村さんの仕事っぷりに驚かされてばっかり」
「あの人は超人だよ。営業部も狙ってるって話もあるぐらいだから」
「営業部……。野村さんならすぐにトップに上り詰めそう、だね」
「……いま、敬語出そうになった?」
私の語尾に違和感を抱いた奥瀬くんが、笑いながら意地悪そうな顔で私を見ている。
「……出なかったもん」
「あはは、出なかったな。残念」
「……意地悪」
「敬語にならなきゃいいだけだろ?」
「そうだけど……」