何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
幼馴染との忘れられない一夜
隼也の自宅は、私の家からは電車で五駅離れたところにある、お洒落なマンション。
「隼也、着いたよ。降りるよ」
「んー……」
「すみません。これで会計お願いします」
運転手さんにクレジットカードを渡し、会計している間に隼也を起こす。
数回肩を揺するものの、微睡の中なのか白目を向いたり目を開けたと思ったらまた閉じたり。
ぺちぺちと背中を叩いているうちにようやくまともに視線が合った。
「んあ?着いたあ?」
「うん。着いたよ」
どうにか起きてくれて、隼也を連れてタクシーを降りた。
エレベーターで三階に上がり、隼也の鞄を勝手に漁って鍵を取り出す。
三〇五号室の扉を開けると、隼也に靴を脱ぐように言ってそのまま寝室に連れて行った。
セミダブルのベッドに放り投げて、また勝手に冷蔵庫を漁ってミネラルウォーターのペットボトルを二本取り出す。
それを寝室まで持っていって、その内の一本を開けて寝かかっている隼也を起こしてやっとの思いで飲ませた。
ベッドの横、地べたにそのまま座りもう一本のミネラルウォーターを勝手に開けて飲む。
アルコールで焼けた喉と胃に、冷たい水が染み渡った。