何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
そわそわしている私に、副社長は
「会社の者を代わりに行かせようか?」
と提案してくれるものの、
「いえ、家族以外は入れなくて……」
セキュリティに厳しいし、何よりも私じゃないと隼輔が泣き喚くだろう。
それがわかっているから私が迎えに行くしか……。
そこまで考えて、そうだ、と思い立って電話をかける。
『もしもし?どうした?』
「隼也、お願いがあるんだけど……」
ワンコールで出てくれた隼也に事情を説明すると
『わかった。今から行けばいいんだな?』
とすぐに了承してくれた。
「うん、先生には私から連絡しておくから。ごめんね、お願い」
『気にすんな。俺にもできることがあって嬉しいよ。じゃあ行ってくるから』
「ありがとう」
元々金曜日で隼也の家に泊まる予定だったからか、話はスムーズに進む。
すぐに切って、託児所に電話をかける。
「すみません、少し遅れてしまいそうで、私の代わりに隼輔の父親が向かいますので、はい。名前は──」
副社長からの視線を感じながらも、掻い摘んで説明すると先生も快く了承してくれた。
「……大丈夫そうだね」
「はい。お騒がせして申し訳ございません」
「いやいや、元を正せば私のせいだ。君が気にする必要は無い」
副社長は詳しく聞くでもなく、かと言って無関心というわけでもなく。
「隼輔くんを任せられる家族ができたんだね。良かったね」
微笑んで、ただそれだけ言ってくれた。