何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
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「はい、ではこの書類に退去の二週間前までに記入して提出をお願いします」
「わかりました」
引っ越し準備を少しずつ進めつつも、週明けの月曜日に人事部に今の寮からの退去の申請をしに行くと、ファイルに入った書類を数枚渡された。
それを抱えながら秘書室に戻って仕事をしていると副社長からお呼びがかかる。
「副社長、お呼びでしょうか」
副社長室に入ると、にこやかに手招きされた。
「うん、寮から出るんだって?」
「はい。いろいろありまして、ようやくですが」
会社から近くて家賃補助も出て住み心地も良いからそのまま出ない人も多いと聞くけれど、三人で住むには少し手狭だ。
これも隼輔ためだなら後悔は無い。
そう思っていた私に、副社長はニヤリとした視線を向けた。
「ははっ、結婚も近いのかな?」
「っ……はい、実はその予定です」
嘘をつく理由はないため肯定すると、今度は本当に嬉しそうに微笑んでくれた。
「おめでとう。自分のことのように嬉しいよ」
「恐れ入ります。ありがとうございます」
「まさか鷲尾専務とそんな仲になっていたとは私も驚いたよ」
「えっ……私、副社長に相手のことお伝えしてましたか……?」
副社長の口から隼也の名前が出て心底驚いた。
何で知ってるの!?
目を見開いた私に副社長は吹き出す。