何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
こうやって隼也が酔い潰れることは、学生時代から年に一度のペースで数回あった。今日が初めてなんかじゃない。
汐音ちゃんと喧嘩したとか、汐音ちゃんに嫌われたかもしれないとか。それは大体汐音ちゃんに関連するのだが。
いつもは酔い潰れたりしないのに、汐音ちゃん関連の愚痴が絡むとすぐこうなるのだ。
それほど好きなのがわかっていたから、どこか微笑ましくもあったけれど。
同性の友達に愚痴ればいいのに、汐音ちゃんの他には私にしか弱みを見せられない隼也は毎度私を呼び出して酔い潰れる。
その度に私は汐音ちゃんに連絡をして、タクシーでここまで送り届けたり汐音ちゃんの迎えを待ったり。なかなかに迷惑をかけられたもんだ。
汐音ちゃんもそれをわかっていて私との仲を許していたし、それがあったから二人はほんの少しでも気持ちを整理する時間ができてすぐに仲直りしていた。
とは言え私は汐音ちゃんという彼女がいる隼也と二人で飲みに行っていたわけで。いくら許してくれていても気持ちの良いものじゃ無いのは明白。
多分汐音ちゃんは顔に出さなかっただけで心の中では私のことを嫌っていたと思うし、実際に私のことでもよく喧嘩していたらしい。
汐音ちゃんに申し訳なくて、しばらく隼也と距離を置いたこともある。
そんなこともあったなあ、と、いろいろと思い出しながら一息ついて、スマートフォンをちらりと見て。