何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



「……これ。今更かもだけど、渡したくて」


「……こ、れって……」



差し出された小さなスエード生地の箱。


誰もが一度は聞いたことがある、高級ジュエリーブランドのロゴ。


隼也がその蓋をゆっくりと開くと、キラキラと輝くダイヤモンドが。



「……隼也……これ……」


「……遅くなってごめん。たくさん不安にさせて泣かせてごめん。舞花一人に全部背負わせてごめん。
でも、隼輔を産んでくれてありがとう。ずっと俺を好きでいてくれてありがとう。こんな不甲斐無い俺を選んでくれてありがとう。……これからは俺が舞花と隼輔を守りたい。舞花が抱えてるもの、俺にも半分背負わせてほしい。……俺と、結婚してください」



改まったプロポーズ。どんな顔をしてプロポーズしてくれているのか、その表情を見たいのに。私の目からは大粒の涙が絶え間なく溢れ出てしまいよく見えない。


それがもったいなくて拭うのに、嬉しすぎて涙が止まらない。


全身から、大好きが溢れてくる。



「はいっ……よろしくお願いしますっ……」



両手で顔を抑えながら震える声で返事をすると、安心したように一つ息を吐いて。


私の左手をそっと掴んで、ほんの少し引いて。


薬指に、指輪を嵌めてくれる。


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