何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
番外編
「ね、ねぇ、父さん。母さん大丈夫かな?」
「落ち着け、大丈夫だから。……でもやっぱり心配だな……」
思わず足が進みそうになるのを、後ろから腕を掴まれて止められた。
「ちょっと、まず父さんが落ち着きなよ。俺よりそわそわしてんじゃん」
「そりゃそうだろ。お前の時も俺は見られなかったんだから」
「それは父さんのせいでしょ?」
「……否めない」
親子で馬鹿みたいな言い合いをしているのは、そわそわして落ち着かないからだ。
俺たちが今行ったところで何もできることは無いのに、どうしても足が前に向かってしまう。
ひとまず数歩戻ってベンチに腰掛けた。
「……母さん、大丈夫なんだよね?」
「あぁ。……大丈夫に決まってんだろ」
「じゃあなんで俺たち追い出されたの?」
「……俺たちがそわそわしすぎて邪魔になるんだと」
「ここにいたらもっとそわそわしちゃうんだけど」
「そうだな……でもこの方が舞花は集中できるんだよ」
「それはわかってるけど……その割には長くない?本当に大丈夫?」
「大丈夫だ。だから信じて待ってろ」
「うん……」
まだ小さく感じるその手をぎゅっと掴むと、普段は嫌がられるのに今日に限ってはされるがままの息子、隼輔。
十歳の子どもにしては大きく見える身体も、今は不安そうに縮こまっている。
それほどまでに緊張して落ち着かないのは俺も同じ。……あぁ、考えれば考えるほど時間が経つのは遅いし不安でいっぱいだ。
「……舞花……頑張れ……」
隼輔と共にそう願うことしか、今の俺にはできない。