何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「隼輔も今日からお兄ちゃんだね」
「うん。この子の名前どうする?俺、いっぱいお世話してあげたい」
「ははっ、頼もしいね。名前はね?実はもう決めてあるの」
「え!なに!?」
「……彩花よ」
舞花から一文字取った、彩花。
そこにいるだけで俺たち家族を鮮やかに彩ってくれる、そんな花のような存在になってほしい。そんな気持ちを込めて舞花と考えた名前だ。
「彩花……うん、彩花か。じゃあ彩ちゃんだ。彩ちゃん、お兄ちゃんだよー」
隼輔は産まれたばかりの妹を前に、すっかり魅了されてしまったらしくずっと笑顔で話しかけている。
泣き疲れたのか眠ってしまった彩花の頰を指で恐る恐る触っているのを横目に、
「舞花」
頑張ってくれた愛おしい妻を、潰さないように優しく後頭部だけ抱き寄せた。
「お疲れ様。頑張ってくれてありがとう」
「うん。ありがと」
汗だくで、その目尻には涙が滲んでいる。
指でそれを撫でてから、ティッシュで額を拭いてやるとくすぐったそうに目を瞑った。
「父さん!母さん!彩ちゃんが笑った!」
「え!本当か!俺にも見せて」
「いやそれそう見えるだけで笑ってるわけじゃ……」
「ほら今!」
「待ってくれ今行くからっ……!」
愛おしい我が子の笑顔を写真に収めようと向かうものの、
「っておい、泣いてんじゃねーか」
すでに泣き始めていた彩花にショックを隠しきれずにがくりと肩を落とす。
まぁ、泣き顔も可愛いけども。
「父さんが来たら泣き始めちゃったじゃん……声デカいんじゃないの?」
昔はパパ、パパ、って走って飛び込んできたくせに。いつからこんなに可愛げのないやつに……。
逞しくも生意気に育ってきた隼輔は呆れたように吐き捨てると、
「母さん、彩ちゃん抱っこしてもいい?」
と舞花に視線を向ける。