何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「うん。いいよ。抱き方わかる?」
「うん。動画見て勉強した」
「待て。俺が先に抱っこする」
「えー?わかったよ。じゃあ次俺ね?」
「わかったわかった。ほら、見てろよ?」
彩花の背中に手を入れて、今にも壊れてしまいそうな小さな身体をそっと抱き上げる。
腕の中にすっぽりと収まった彩花は、さっきまで泣いていたのにすぐに泣き止んだ。
そのまますやすやと眠った可愛い寝顔を見つめていると、隼輔が早く早くと急かすから。
気を付けるように何度も言い聞かせてそっと隼輔の腕の中に彩花を移す。
抱いている人が変わったことにも気付かずにぐっすりと眠っている彩花を見て、俺も隼輔もその顔から目が離せない。
「……可愛いな」
「うん。どうしよう。彩ちゃんが可愛すぎて俺めちゃくちゃカホゴな兄ちゃんになるかも」
「お前、過保護の意味知ってんの?」
「もちろん」
そんなシスコン宣言をした隼輔の手から検査のためコットに乗せられて部屋を出て行った彩花を見送ると、舞花も病室に移動する。
すぐに休んでもらいたくて、俺と隼輔はそのまま面会を終えて病院を出た。
「ねぇ父さん」
「ん?」
「明日日曜だし、面会行く前に彩ちゃんに似合いそうな服買いに行こうよ。俺のお小遣いで彩ちゃんに可愛いやつプレゼントしたい」
「おぉ、いいな。じゃあ俺は舞花にケーキでも買ってやるかな」
「うん。だから明日は昼過ぎまで寝ないでよ?」
「はいはい」
車のミラー越しに見る隼輔の顔は、お兄ちゃんとしての自覚なのか昨日までより凛々しくなったような気がして思わず笑みが溢れた。
あんなに大事に貯めておいたお小遣いをこんなにもあっさりと妹のために使おうとするなんて。
今からそんなシスコンで、この先どうなるんだろうか。
そんな逆の意味での心配はあれど、本人がにやける口元を隠すつもりがないんだからいいだろう。
「じゃあ帰るか」
「うん」
俺だって人のこと言えないから、同じだしな。
家に帰るまでの道は、とても静かなのに幸せに満ち溢れていた。