何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「……さて。帰るか」
彼女でも何でもないのに、今日も隼也を家まで送り届けたんだから誰か褒めてほしいくらいだ。
とは言え無条件で褒めてくれるような相手もいないけれど。
……なんて。切なくなるだけだからやめよう。
お金は今度隼也に請求するとして。帰って私も寝たい。
時刻はすでに午前一時を回っていた。
……駅でタクシー拾うか。
「じゃあ、私帰るから」
聞こえているはずもないけれど、何も言わずに帰るのもどうかと思って一応声をかける。
当然声は返ってこないのを確認して、私は部屋を出ようと立ち上がった。
「……え?」
きゅっ、と。掴まれた腕。
「……隼也?」
呼びかけると、もぞもぞと動いて閉じていた瞼が開く。
「んー……あれ……舞花あ?」
ついさっきまで寝ていたのに、急に起きたのか、瞼を擦りながらも虚な目で私を見つめる。
それに、ドクンと胸が鳴った。
「……なに?どうかした?」
平静を装い問いかけるものの、むにゃむにゃとしている隼也は私の腕に絡みついてくる。