何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
両手を掴まれているから逃げることもできないし、ましてこんなキスをされてしまったら、身体に力が入らなくて突き飛ばすこともできやしない。
耳の中に入り込んできた舌が、ぐちゅぐちゅと音を立てて動き回る。その音が脳内までもを刺激して、私の奥底が、甘く疼いた。
ようやく私の手が解放されたかと思いきや、今度は隼也は自分の右手だけで私の両手を掴んで離さない。
そして空いた左手は、私の背中をツー……と撫でる。
ビクン、とその微かな刺激に身を捩れば、隼也は面白そうに口角を上げた。
「なに、舞花って耳も弱いし、首も弱い。背中も弱いの?」
「はぁ……ん……」
その手は次第に腹部を通って、胸に近付く。
「やば……舞花、可愛いよ」
汐音ちゃんと間違えているのなら、もうやめてほしい。
私の名前を呼んで、汐音ちゃんを見ているのならば、やめてほしかった。
だって、こんな抱かれ方したら。
……私が、大切にされているように、錯覚してしまう。
私のことを愛してくれているんじゃないかって、錯覚してしまう。
隼也は、私のことなんて好きじゃないはずなのに。
私のことなんて、ただの友達としか思っていないはずなのに。
どうして、こんなに優しく私を抱くの?
わからない。わからないよ、隼也。