何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
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目が覚めた時、まだ外は真っ暗だった。
それもそのはず。時刻はまだ夜中の二時。ほとんど時間は経っていなかった。
「……やってしまった」
隣で気持ちよさそうな寝息を立てて夢の中にいる隼也。
お互い何も身につけていない姿で、薄い布団だけが掛かっていた。
……幸せだった。とても、幸せな時間だった。
隼也に愛されていると錯覚してしまうほどに、愛おしい時間だったと思う。
でもきっと隼也は起きた時、数時間前の情事のことはもう覚えていないだろう。
あれだけ飲んだ後だ。いつもの感じだと絶対に記憶が曖昧なはず。酔い潰れるとかなりの頻度で記憶を無くすタイプの隼也だから、まず間違いない。
それなら、私を抱いたと分かれば隼也は困るだろう。
ずっと友達として接してきた。
この関係を壊したくなくて、私の気持ちをひた隠しにしてきた。
隼也にもバレていない自信があった。
それなのに、そんな友達と身体の関係を持ってしまったとなれば、隼也はどう思うだろう。
私に対する罪悪感。本当は汐音ちゃんが好きなはずなのに、私と重ねてしまったことに対する絶望もあるかもしれない。
それに、きっとこのベッドの上は、今まで何度も汐音ちゃんと共に夜を迎え、幾度となく甘い時を過ごしたはずだ。たくさんの思い出が詰まっている場所だろう。
そんなところで他の女を、まして私を抱いたなんてことを知ったら。
……想像するのも怖かった。