何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
福岡に行ってすぐにスマートフォンの電源を入れた時、隼也からの鬼のような着信が鳴った。それに驚きつつも出ると、思いっきり怒鳴られた。
"転勤ってなんだよ!いつから!?俺聞いてないんだけど!"
"もう着いた!?ふざけんなよ!もっと早くに言うタイミングあっただろ!?お前、マジでありえねぇ!もう勝手にしろよ!"
ブツ、と切られた電話に、途方も無い虚しさを感じたことを覚えている。
その後何回か折り返したものの、隼也は電話に出てくれなかった。
……当たり前か。全部事後報告だもん。呆れられて当然だ。嫌われてもおかしくない。
自分で決めたことなのに。自分で報告を怠ったからこうなっているのに。大きな後悔が残った。すぐにでも帰って謝りたくなった。
でも、大切な友達を自分の浅はかさで失ってしまった事実は、もうどうしようもなくて。
自暴自棄になりながら新居に向かって歩いている時に人とぶつかり、コンクリートの上にスマートフォンを落として画面を割ってしまった私。
そのままスマートフォンは電源が入らなくなってしまった。データのバックアップも取っていなかったために、今までの写真だけでなく電話帳も全部失ってしまった。
急いで携帯ショップに駆け込むと、どうせデータが無いのなら今ならキャンペーンで機種変更よりも新規契約の方が安いですよ、と言われ、あれよあれよと言う間に新しい電話番号の最新機種に変わっていた。
今すぐスマホが欲しかったためあまり深く考えていなかったものの、番号が変わってしまったことによって起こる弊害に気付くまで時間がかかった。
"あれ?私の番号も変わったってことは……どうやって連絡取ればいいの?"
騙された!と思った時には既に契約サインをした後。
もしかしたらその場でキャンセルも出来たのかもしれないものの、パニックになっていた私はそのままお店を出てしまった。
仕事では新たに業務端末を支給されているため、プライベート用の番号が変わっても特に問題はない。
そうだ!と思い立ち、記憶していた実家の固定電話にかけて両親の番号はどうにかスマホに登録できたものの、隼也の番号はさすがに覚えておらず、どうすることもできずに連絡が取れなくなってしまった。
申し訳なさとやるせなさ、そして罪悪感は残るものの。どうせ嫌われてしまったわけだし、隼也を忘れるためにはそれくらいがちょうど良いのかもしれない。
きっと、仕事に集中しろってことだ。そういう神様からの思し召しだ。
そう思わないと、どうにかなりそうだった。