何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



しかしそれから一ヶ月ほど経過したある日。


私は朝から猛烈な吐き気に襲われ、会社の寮で目が覚めてすぐにトイレに駆け込んだ。


変なものでも食べたっけ?


水を流して口を濯ぎながら首を傾げていたものの、それから事あるごとに吐き気を覚え、ついには仕事中、常務の前で目眩がして倒れそうになってしまった。


すぐに病院に行くように言われタクシーで向かったところ、そこで思わぬ事実を告げられたのだ。



『おめでとうございます』


『……え?』



その言葉の意味もわからないまま紹介状を渡され、総合病院内の産婦人科に案内された。


診察室隣にある部屋でスーツの下を脱がされ、下着も脱がされて誘導されるままに椅子のようなところに座った途端、恥ずかしい体勢で何か器具をいれられて。



『ちょうど六週をすぎたあたりかな?ほらここ、これが胎嚢って言うところで───』



先生の言葉はそこで耳に入らなくなり、モニターに映るモノクロの映像に何度も瞬きをした。


妊娠した。その事実を理解するまでに、どれくらいの時間を要したのだろう。


受け取ったエコー写真を見る。何度考えても相手は隼也しかいない。


< 30 / 116 >

この作品をシェア

pagetop