何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
でも、隼也とはもう連絡も取れないし、取れたところで一夜を過ごしたことも覚えていないであろう隼也にこのことを言う?汐音ちゃんと混同していたかもしれない隼也に?妊娠しましたって?
……言えるわけもなかった。
不幸中の幸いなのは、言う術自体が私には残されていなかったことだ。
それよりも問題だったのは、仕事の方だ。
私はまだ転勤したばかりの身。まさかこんなタイミングで妊娠が判明するとは思わず、常務にどうやって報告しようか、そればかり考えていた。
産むという選択肢以外、私の頭には浮かばなかった。妊娠を理解した時点で、産むことはもう決めていた。吐くのも目眩がするのも、倒れそうになったのも全て悪阻だった。
すでに迷惑をかけてしまっている手前、黙っているわけにもいかずすぐに報告した。
もちろん常務は驚いていたものの、それはそれは祝福してくれた。
未婚で、見知らぬ土地で判明した妊娠。
もしかしたら誰にも祝われないかもしれない。白い目で見られるかもしれない。
そう思っていた私は、手放しで喜んでくれた常務に驚き、ほんの少し安心した。
それからは常務の第一秘書から第二秘書に内容を変更。内勤のみになるように調整してもらい、体調を見ながら仕事を続けた。