何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「私も佐久間商事の専務には今日初めて会うんだよ」
「そうでしたか」
「うん。その人は最近専務に昇進したらしくてね。佐久間商事の社長のご子息で、まだ若いんだよ」
「へぇ……」
「確か津田島さんと同年代だったはずだよ」
「え、そうなんですか?」
若いって言っても副社長と同じくらいの年代だと思っていた。
まさか、私と同年代ってことは二十代か三十代ってこと?
やっぱり御曹司というのは、若くして役職を持つのだろうか。確かに常盤副社長も三十代で役職がついたと聞いたことがある。それはそれで気苦労が絶えないだろう。お金持ちというのもいろいろと大変そうだ。
三十分ほどで、佐久間商事のビルに到着した。
エントランス含め、ロビーは全面ガラス張りでこれでもかというほどに太陽の光を取り込んでいる。
明るく綺麗なオフィスビルは、たくさんの人が行き来していた。
佐久間商事は何代も続く大手の総合商社で、国内のみならず海外にまで幅広く事業を展開している。
TOKIWAとも古くから付き合いがあり、今日は新しい専務と挨拶代わりの会のようだ。
ビルの三十階。役員専用フロアだろうか、静かな廊下を進んで応接室に案内された私たちは、出されたお茶を飲みつつ専務を待つ。
五分ほどでドアがノックされ、ゆっくりと開いた。