何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「……結婚したのか?」
「指輪無いの見てたでしょ?独身だよ」
「じゃあ、シングルマザーってやつか?」
「うん。そう」
歩きながらの質問攻めに、私は困っていた。
「……その子の父親は今どこに?福岡か?」
「……言いたくない」
「子どもができたら捨てられたのか?」
「違う、私が勝手に産んだの。相手は私が妊娠したことすら知らない」
「は……?何で言わねぇんだよ。その男はこの子の父親なんだろ?」
「……うん。でも私が勝手に産んだだけだから。それにその人は他の人のことが好きなのよ。私じゃないの。……だからいいの、私には仕事とこの子が一番大事」
きっぱりそう言い切ると、隼也は何も言えなくなってしまったらしくそのまま押し黙る。
沈黙が続いたまま、気が付けば寮の目の前まで来ていた。
「送ってくれてありがとう」
「あぁ。気にすんな」
「……夕飯食べてく?簡単なものでいいならすぐ作るけど」
「……いいのか?」
「うん。話したいこともあるし。……ちゃんと、謝らなきゃいけないこともたくさんあるから」
この三年間のことを、まずは謝らねばいけない。
そう思うと、自然と部屋に隼也を招いていた。