何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「言うタイミングを見失った、なんて言い訳でしかないけど。今考えるとタイミングなんていくらでもあったし、怖かっただけなんだろうなって思ってる」
「……」
「向こう着いて、隼也に怒られて。その後、スマホ壊れちゃって。データも全部吹っ飛んで、ショップ行ったらいつのまにか番号まで変わってた。実家の番号しか覚えてなかったから、隼也に連絡取れなかったんだ。子ども……隼輔は、向こうで妊娠がわかってすぐ、一人で産むって決めた。相手とは付き合ってたわけじゃないしね。大変だったけど後悔はしてない。……心配かけて、迷惑かけて、本当にごめんなさい」
三年ぶりの謝罪は、隼也を苦しめただけかもしれない。
それくらい、隼也の顔は歪んでいて今にも泣きそうになっていた。
「……お前が転勤したって聞いた日。俺それ見てパニックになって。あまりにも急すぎたし、事後報告でもう九州にいるって言われるし、すぐに受け入れるなんて到底無理で。どうしたらいいかわからなかった」
「うん。それが普通だよ。当日までずっと言えなかった私が悪いんだよ。隼也は悪くない」
あの夜のことが忘れられなくて、言えなかった私が悪いんだ。
怖くて、言い出せなかった私が悪いんだ。