何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「それはそうかもしれない。でもそれは俺が八つ当たりしていい理由にはならないだろ。勝手に電話切って。あの時はごめん。……悔しかったんだ。俺は、何かあったら一番に舞花に相談するのに、転勤のことも、……子どものこともそうだけど、舞花は俺に何の相談も無く、人生の大事な選択を決めちゃうんだと思って。それが悔しかった」
「……」
「少しは相談してくれよって。俺ってそんなに頼りないかなとか、いろいろ考えて。馬鹿みたいに……いじけた」
呆れたように笑ったその姿が、とても儚くて、切なくて。
私のせいでそんな顔をさせてしまっていることに、吐き気がしそうだ。
「頭冷やそうと思って三日くらい経った後に謝ろうとして電話したら、もう繋がらなくて。"現在この番号は使われておりません"って、意味わかんなさすぎて発狂しそうだった」
隼也のその時の焦りは計り知れない。多分、私もその立場だったら同じように思っていたと思う。
「……あの時はマジで焦った。福岡に転勤って話しか聞いてないし、いつ帰ってくるのかもわかんねぇし、連絡はつかなくなったし。会社に電話するわけにもいかないし、お前の実家に電話しようかと思ったけど、さすがにそれはな……って思ったりして」
「……」
「舞花がふらっと帰って来るんじゃないかって思ったら、これ以上繋がりが無くなるのが怖くてあの部屋から引っ越すことすらできなくて」
まさか、まだあのマンションに住んでいるのだろうか。
「……本当に、ごめんなさい」
言葉の節々から、本当に私のことを心配してくれていたのがよくわかる。
「心配かけて、ごめんなさい」
……私は、一体何てことをしてしまったのだろう。