何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
舞花は俺が忘れていると思っているようだが、俺はあの日のことをしっかり覚えている。
三年前の、舞花を欲望のままに抱いた日のことを。
あの時は確かに汐音と別れた後で自暴自棄になって、昔から俺を甘やかしてくれる舞花の優しさにまた甘えてやけ酒に付き合ってもらって。
その時、何故かそれまで幼馴染としか思っていなかった舞花が突然誰よりも魅力的で、可愛くて。そう見えて自分でも驚いた。
夢中で求めて、夢中で抱きしめて。
今まで何人か恋人と呼ぶ存在がいたことはあれど。
あんなに狂おしいほどに甘くて濃密な時間は、俺の人生の中で確実に初めてだったと言える。
それくらい、俺の全身が舞花を求めて離さなかった。
翌朝起きたら舞花がいなくて、どれほど焦ったか。
連絡しても出てくれないし、やっと連絡がついたと思ったらすぐに切られちまうし。
終いには転勤の事後報告と音信不通。
あの時の俺は、周りから言わせれば"発狂"していたらしい。