何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
舞花に嫌われた。
頭の中はそれしかなくて、舞花を失ってしまったことで俺は誰が見ても壊れてしまっていた。
誰かに当たるわけじゃない。物に当たるわけでもない。
一心不乱に、何も考えないように仕事にのめり込んで。
休みの日には一人で酒に溺れた。
そうでもしないと、舞花のことを思い出して胸がはち切れそうなほどに苦しくなってしまうから。
……俺は馬鹿だ。
今まで近くにいるのが当たり前で、その存在の大きさに気が付いていなかった。
あの日の、舞花から香るグレープフルーツの甘酸っぱい香りが忘れられない。
似たような香りの香水を見つけて、すぐに買ってしまったくらい、全身が舞花を求めていた。
舞花がいなくなってから、初めて気付いた自分の気持ち。
こんなにも、狂おしいほどの感情を俺が持っていたなんて。知らなかった。