何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



そんな状態で三年過ごし、皮肉にも邁進していた仕事で評価されて、予定よりも早く昇進した。


そして数日前、会社に取引先の副社長が訪ねてきた時。


その隣にいる秘書が舞花だと気が付いた時に、俺は言葉を失って目を見開いた。


目の前の光景が、信じられなくて。


夢でも見てるんじゃないかって。幻覚でも見てるんじゃないかって。


本気でそんな心配をしてしまうくらいには、名刺を凝視してもそこに舞花がいることが信じられなかった。


三年ぶりの再会は、思いもよらぬ場所とタイミングで。


心の準備もできていなくて、焦って何度も視線を送ってしまった。


仕事に集中しなければ。そう思い直して仕事モードに頭を切り替えるものの、そんなの無理に決まっていた。


身体は勝手に動いて常盤副社長との話を進めていくのに、頭では全く違うことを考えているのだから困ったものだ。


見送りの時に思わず舞花だけにわかるように口を動かしたのは、本当に舞花なのかどうかを確かめたかったからだ。


しかし、まさかこの三年の間に子どもを産んでシングルマザーになっていただなんて。


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