何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「え?振られた?」
コクリと頷いたのを見て、言葉を失う。
鷲尾隼也。私と同い年の二十四歳。
ふわふわの黒髪と切長の目。高い身長と堀の深い顔立ちが日本人離れしている、とイケメンとして名高い男。
笑うとちょっと幼くなるのがギャップがあって可愛いと評判の男だ。
私とは別の大手企業で今は営業としてバリバリ働いている。
私とは保育園の頃からの付き合いで、高校まで一緒だったいわゆる幼馴染というやつだ。
昔は私より身長が小さくて、しかも泣き虫で怖がりだったのに。いつのまにか私が見上げないといけないくらいに成長して、その端正な顔立ちから女の子に大人気でモテモテになっていた。
とは言え私とはそういう仲になったことがなく、親友兼相談役としてずっと仲良くやっている。
そんな隼也には、大学生の頃から付き合っていた汐音ちゃんという彼女がいたのだが。別れたという単語は、俄かに信じ難いものがあった。
だっていつも一緒で仲が良くて、確かに喧嘩という喧嘩はそこそこあったけれど、それでもお互いがお互いを大切に思っていて誰も入り込めない雰囲気があったはずなのに。
それなのに、振られたって……?
どういうことか聞こうとすると、そのタイミングでちょうど水と烏龍茶が運ばれてきた。