何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「だってっ……私、勝手に産んで……」


「あぁ」


「一人でっ、隼輔を守らなきゃって……」


「あぁ」


「全部知られたら、嫌われると思ってっ」


「なんでそうなるんだよ。嫌うわけねぇだろ」


「だって、だって……!」



隼也の服を力任せにぎゅっと握る私の言葉にならない声を遮るように、隼也はクッと顎を上げてそっと唇を合わせた。


私の声を飲み込むように、私の涙を吸い取るように。



「……もう黙ってろ」


「っ」


「心配しなくても俺は怒ってねぇし、舞花のことを嫌うわけもない。むしろ俺は嬉しいんだよ」


「……嬉しい?」


「あぁ。嬉しい。すっげぇ嬉しい」



本当に嬉しそうな声色だから、信じてしまいそうになる。



「それに俺がそんな薄情じゃないってことくらい、お前が一番知ってんだろ?」



その言葉に、私は涙目で隼也を見上げる。


……そうだ。隼也は、そんな人じゃない。


口は悪いしちょっとヘタレだけど、頭が良くて人が良すぎるほどに優しい。


メンタルはそこまで強くないけど自分を取り繕うのがとても上手い。


弱音を吐くのが苦手で、人に甘えるのが得意じゃなくて、自分を責めてしまいがち。


そして、



「だからもう泣くなよ。もう俺から逃げんな」



なによりも、周りの人をとても大切にする。


隼也は、そんな人だ。


そんな隼也が、私はずっと好きなんだ。


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