何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「乾杯しよ」
という隼也の声に、隼也のビールジョッキと乾杯してからまず水分を補給する。
隼也に水が入ったグラスを渡すと、受け取ってすぐにグイッと半分ほど飲み干した。
「あんなに仲良かったじゃん」
「俺もそう思ってたんだけど……」
「もしかして、私のせい?」
「違うよ。たださぁ……」
今度はしくしく泣き始めた隼也に、私は順を追って説明するように伝えた。
いろいろと文句を交えながら話してくれたものの、要約すると、どうやら汐音ちゃんに他に好きな人ができたらしい。
二股されてはいなかったようだが、それが原因で振られてしまったんだとか。
「最近あんまり会ってくれなくなってたからおかしいとは思ってたんだけど……」
「そっか……。それでやけ酒してたの?」
「あぁ。……こんなこと、舞花にしか相談できないからさあ……」
昔から、隼也は自分を繕うのが上手くて。
つらい時も苦しい時も、何でもないような顔をする。
しかし幼い頃からずっと一緒にいる私はそれに大抵気が付いてしまうから、隼也も私の前で虚勢を張るのはやめた。
汐音ちゃんには同じように自分の弱さを出せたようだけれど、別れてしまった後は私しかその相手がいないのだ。
この調子じゃあ、今日も長くなりそうだ。
「ははっ……、明日休みだし、今日はとことん付き合うよ」
明日は土曜日だから、少し遅くなるくらい大丈夫だろう。
そんな考えから、私は約束通りビールを注文した。
最近飲みすぎてお腹のお肉が気になり始めていたものの、ダイエットはどうやらまたお預けのよう。
私の転勤話も、また今度話を聞いてもらうことにしよう。
この時は、安易にそんなことを考えていた私。
受け取ったジョッキで、改めて隼也と乾杯した。