何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。



「ほら、津田島さんも」



お酒も注がれてしまい、やはり帰れそうもなかった。


頭の中は隼輔のことでいっぱいで、ちゃんとご飯食べられたかな、とかちゃんと寝れたかな、とか。


お風呂で暴れなかったかな、とか歯磨き嫌がらなかったかな、とか。


そんなことばかり考えていると、無性に隼輔に会いたくなる。


ようやく会がお開きになった時には、すでに二十二時を回っていた。


日付を跨がなかっただけまだマシだろうか。


重役たちをハイヤーに乗せて、副社長の車で送ると言われたものの丁重にお断りした。


実は隼也が迎えにきてくれることになっていたからだ。


トイレに立った時、隼也から"終わったら迎えに行く"と連絡が来ていた。


元々今日の会食の予定は伝えてあったため、二つ返事でお願いすることにした。



「舞花!」


「隼也」


「待ったか?悪い、思ってたより道が混んでて」


「ううん。大丈夫。それより隼也も仕事で疲れてるでしょう?わざわざ迎えに来てくれてありがとう」


「当たり前だろ。気にすんなよ。ほら乗って」



見慣れたセダンに乗り込む。


今日は誰も座っていない後ろのチャイルドシートにまた寂しさが募る。



「隼輔は?」


「実家に預けた。お母さんから二十時すぎに寝たって連絡も来てたし、楽しくやってるみたい」


「そうか。良かった」



お母さんからは逐一報告の連絡が来ていた。


多分私が心配しないようにということなのだろう。ご飯を食べながら笑っている写真もあり、安心した。


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