何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「……ちょ、っと。隼也?」
「んー……舞花ぁ、まだ飲み足りねぇーよー。二軒目行こー……」
「何言ってんの。もうここが二軒目だよ。流石に飲み過ぎ。帰ろ。送ってくから」
「いやだ!まだ飲む!」
「ダーメ。会計してくるからちょっと待ってて」
後ろから舞花の馬鹿ぁ!と騒いでいる隼也を一旦放置して、私は二軒目のバーで会計を済ます。
「お連れ様、大丈夫ですか?」
「あ、はい。すみません。ご迷惑をおかけしました。申し訳ないんですけど、タクシーだけ一台手配してもらえますか?」
「かしこまりました」
お店のマスターにお願いして、隼也の腕を引っ張って無理矢理立たせる。
「舞花ぁ?」
「帰るよ。今タクシー呼んでもらってるからね」
「えぇー……、じゃあ家で飲み直そ」
「はいはい、わかったから、とりあえず帰ろうね」
それだけ酔っててまだ飲むつもりなのか。
一息つきたいのを我慢しながら子どもをあやすように酔っ払いの相手をしつつ、足下の覚束ない隼也をなんとか支えながらお店を出た。
数分で来たタクシーに乗り込み、もう覚えてしまっている隼也の自宅の住所を告げる。
後でお金請求しよ。思ったより飲んでたから、給料日前なのに結構な出費だよ。
通帳の残高を思い出して、なんとも言えない心境に陥る。
私の肩に頭を乗せたまま寝息を立てている隼也を見て、私は一つ、ため息をついた。