何も言わないで。ぎゅっと抱きしめて。
「母さん、父さん。兄ちゃんと舞花ちゃん来たよ」
「ただいまー」
リビングに入ると、啓也くんが二人の両親に呼びかける。
ソファから立ち上がって私を出迎えてくれたのは、懐かしい顔ぶれ。
「いらっしゃい。……久しぶりね、舞花ちゃん」
嬉しそうに両手を広げて優しくハグをしてくれたおばさんと、優しい表情を向けてくれるおじさん。
「ご無沙汰しております」
二人に頭を下げると、私の腕の中にいる隼輔に目を向けた。
「……その子が隼輔くん?」
「はい。ご挨拶が遅れてしまってすみません。今は寝ちゃってるんですけど、この子が隼輔です」
くるっと身体の向きを変えて二人に隼輔の寝顔を見せる。
「可愛いわねぇ。まさか私たちがおじいちゃんとおばあちゃんになるなんて。想像もしてなかったわあ」
と隼輔の頰を優しく触る。
ほんの少しだけ眉間に皺を寄せて顔の向きを反対にしてしまった隼輔にも「あら、いきなり触りすぎちゃったかしら」と嬉しそうに笑っている。
「立ち話もあれだろ、舞花、そこ座って」
「そうね、気が利かなくてごめんなさい。今お茶入れるから座っててね」
「あ、お構いなく。ありがとうございます」
すぐに目の前に置かれたショートケーキとミルクティー。それをありがたく口に運びながら、今までの経緯を説明すると共に二人に頭を下げて謝罪した。