猫目先輩の甘い眼差し


いくらなんでも、それはちょっと酷い気が……。

そう口を挟もうとしたら。



「だけど、ありがたいことに、それがきっかけでこの業界に興味持ってさ。将来の夢が見つかったんだよね」



くるりと振り向き、固まる私に笑いかけた。


器、広くない……?

あまりいい思い出がない相手に感謝してるって。
大人でもなかなかできる人いないよ。

半年しか誕生日離れていないのに……私よりもずっと大人だ。



✾✾



オープンキャンパスが終わり、駅前に戻ってきた。



「じゃあね市瀬さん」

「はい。また明日」



一ノ瀬親子と別れて、母が送ってくれた場所まで足を運ぶ。



「どうだった? 初めての体験入学は」

「楽しかったよ。すごく勉強になった」



最後に行われた体験授業では、家でできる犬と猫の健康チェックを教えてもらった。

毎日猫とは触れ合ってるけど、種類によって体格や毛質は違うもの。

今回はそれを体感できて、また1つ勉強になった。



「それは良かった。また夏休みにでも行くか?」

「うん。でも1人で行くからいいよ」

「……そうか」



しょんぼりする父。

はしゃがなければ別に一緒でもいいんだけどね。



「市瀬さーん!」



すると、後方からバイクの音に混じって名を呼ぶ声が聞こえた。

まさかと思い、振り向くと。



「……今の、一ノ瀬さん達だよな?」

「……多分」



一瞬にして通り過ぎていった、バイク2台。


手を振っていたのが先輩だとすると、会釈したのは恐らく父親。

親子揃ってバイク乗りだったの……⁉


目を見開いたまま、颯爽と走り去っていく2つの背中を見送った。
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