猫目先輩の甘い眼差し
「外に放出したかった気持ちはわかるけどさ、トラ吉がいるんだから、そこは腕で押さえてよ」
以前やらかした母と同様、強く言い放ち、トラ吉を抱きしめる。
もう……。
ベルが脱走したのを聞いた時、『犬と違って猫はピョンピョン動き回るから油断は禁物だ』って、お母さんに厳しく注意したのは誰?
「ビックリさせてごめんな。せっかくくつろいでたのに」
窓を拭き終わった父がその場にしゃがみ、トラ吉に手を伸ばす。
「わわわっ、トラっ、大丈夫だから」
先程の大声で過敏になっていたのか、触った途端じたばたと暴れ始めた。
「もう! 何やってるの!」
「ご、ごめんっ」
父に背中を向けて部屋の隅に移動し、「大丈夫だよ」と再度声をかける。しかし、一向に収まらず。
ジタバタする度に、爪が何度も腕を引っ掻く。
痛みに耐えていたけれど、前足による猫パンチが顎にヒット。
衝撃で腕の力が一瞬緩み、逃げるように飛び下りてしまった。
「トラ〜、おいで」
「ほら、怖くないぞ」
「お父さんは黙ってて」