猫目先輩の甘い眼差し
最初は速度と風に驚いていたのに、この短時間ですっかりリラックスして、話までできている。
気遣ってくれた先輩には感謝でいっぱいだ。
「雷夜のお父さんと俺のお父さん、小中時代の同級生で。それに職場も同じだったから、ちょくちょく交流してたんだよ。郁海はね……」
話し続ける先輩だけど、後半の内容が耳に入ってこない。
同じ職場ってことは、目黒先輩のお父さんも警察官なの⁉
これは単に、犬派と猫派で張り合っているわけではなさそうだ……。
「市瀬さんの近所にさ、剣道場ない?」
「はいっ。あります」
「俺、毎週土曜日にそこに通ってるんだよ」
「そうなんですか? 警察官っぽいですね!」
住宅街に入ったタイミングで、また新たな情報を得たものの。
目黒先輩の話のインパクトが強かったため、そこまで驚かなかった。
もしかして、トラ吉が脱走した時、向かう途中だったのかも。
だとすると、あの大きな荷物は胴着と竹刀だったのか。
数分後。待ち合わせ場所だった公園に戻ってきた。
バイクから下りて装備を外す。
「今日はありがとうございました。楽しかったです」
「こちらこそありがとう。俺も楽しかったよ。また乗りたかったらいつでも言って」
そう言い残すと、先輩は颯爽と去っていった。
あんなに怖がってたのに、また乗りたいと思ってる自分がいる。
今度は先輩の受験が終わった後に乗れたらいいな。
淡い期待を抱きながら、姿が見えなくなるまで見送った。