猫目先輩の甘い眼差し
「トラっ! ダメっ!」
立ち上がって追うも、トラ吉は母を踏み台にして庭へ。
そんな……っ、嘘でしょ⁉
受け止めきれずに尻もちをついている母を置いて、急いで玄関へ回る。
ドアを開けたタイミングで、トラ吉が家の敷地内から出ていくのが見えた。
「トラ吉! 待って!」
何度も呼びながら後を追う。
猫は追いかけられるのが苦手だから、追えば追うほど余計に逃げてしまう。
しかし、さっきと違ってここは外。しかも休日のお昼。
住宅街とはいえ、平日に比べて交通量が多いから危険度も高い。
「あれ……? どこいった?」
懸命に追ったけれど、逃げ足が速かったようで。
角を曲がった時にはもう姿はなかった。
「世蘭!」
息を整えていると、父が小走りでやってきた。
「トラ吉は?」
「見失っちゃった……」
「どうしよう」と弱々しく声を漏らす。
必死になってたのが怖くて隠れちゃったのかな。
どこかのお家に迷い込んでるならいいけど、もし道路に出てたら……。