猫目先輩の甘い眼差し
「大丈夫。トラ吉は室内飼いだから、そこまで遠くには行ってないはずだ」
目に涙を浮かべる私に、父が安心させるように声をかけた。
「本当……? 近くにいるの……?」
「多分。トラ吉の性格を考えると、低木の中とか物置の陰に隠れてるかもしれない。これ持ってもう1回捜そう」
渡されたのは、猫用のかつおぶし。トラ吉の大好物だ。
父が言うには、駐車場と庭にも、おやつとご飯を置いてきたらしい。尻もちをついていた母も無事とのこと。
手に少しだけ出して握りしめ、手分けして周辺を回る。
「トラ吉〜、おやつだよ〜」
優しく呼びながら、停まっている車の下を覗く。
公園にも足を踏み入れ、ベンチの下や遊具の中も見たけれど……。
「どこ行っちゃったの……」
それらしき姿も、猫がいたであろう形跡もなかった。
いそうな場所、結構捜したんだけどな。
肩を落とした後、時計を確認する。
3時25分。病院に行く時間まであと10分。
お父さんとお母さんはどうなんだろう。
連絡したいけど、何も持たずに出ちゃったからな。
せめてスマホを持って出るべきだった。