猫目先輩の甘い眼差し
拳に力を入れて顔を上げると、先輩は柔和な表情で私を見つめていた。
「長所、ですか?」
「うん。それって言い換えると、『小さな部分にも目がいく』ってことじゃない? ケアレスミスにもいち早く気づけたり、異変を見つけたり。病気の早期発見にも繋がるかもしれない」
無理に直そうとしなくていい。
そのほうが逆に負担がかかって、ストレスになりそうだから。
自覚できているだけでも充分だよ。
と、励ましてくれた。
「……ありがとうございます」
「どういたしまして」
その瞬間、拳に入っていた力がフッと抜けて、心が温かい気持ちで満たされた。
「あとさ、言える範囲でいいから、ご両親にさっきの話をしてみたらどう?」
「猫ちゃんの話をですか?」
「うん。他にも、なかなか言い出せなかったこととか。ずっと我慢するのは良くないし。もしそれで体調崩しちゃったら……それこそ悲しんじゃうよ」
ハッと気づく。
ずっと、迷惑をかけないことが、心配をかけないことが正解だと思っていた。
言われてみれば、身を犠牲にしてまで気を遣われても全然嬉しくない。むしろ申し訳ない気持ちになる。
「まぁ、無理にとは言わないけど……」
「いえ、ありがとうございます。帰ったら、ちゃんと話してみようと思います」
再び深く頭を下げる。
長年しまい込んでいた気持ちを伝えるのは、ちょっぴり怖い。
けれど……こうやって先輩に話せた今なら──。
「あらおかえり。大丈夫? 雨降らなかった?」
「……うん」
「ん? どうしたの?」
「……お母さん、あのね────」