猫目先輩の甘い眼差し
にっこり笑った一ノ瀬先輩。
嘘はついていない。けれど……。
「そうですか……。良かったですね! すみません、呼び止めて。お先に失礼しますっ」
ペコッと頭を下げて、母が待つ家へ自転車を走らせる。
ろくに目も合わせずに、話の途中で切り上げるなんて、感じ悪かったよね。
だけど、次に発せられる言葉を聞くのが怖かった。
色んな感情が次々と私を振り回して、これ以上は限界だった。
尾行してたの、バレてたかな。
ペットショップ出た後、見失っちゃったんだよね。
もしかしたら、着けられてるって勘づいて撒いたのかもしれない。……考えすぎ?
「はぁ……」
家の駐車場に自転車を停めて溜め息をつく。
目黒先輩が口にしていた通り、2人は無類の動物好き。そして、仲のいいクラスメイト。
顔を合わせれば、動物の話や学校の話ばかりで、恋愛話をしたことが1度もなかった。
「ただいま。はい醤油」
「ありがとう! 暑い中ごめんね~」
母に醤油を渡し、冷蔵庫からお茶を出して、グビッとのどに流し込む。