猫目先輩の甘い眼差し
「零士達には、大事を取って帰すことにしたって言っといたから」
「すみません。色々とありがとうございました」
「失礼します」と一礼して昇降口へ。
本当はどこも具合は悪くないんだけど、気まずいだろうからと、機転を利かせて早退させてくれたのだ。
話を聞いてもらえただけでなく、たけおくんの動画まで見せてもらって、最後の最後までお世話になっちゃった。
お礼に今度、お父さんの愛犬の動画でも送ろうかな。
ユキちゃんの話をしたら、自分も実家にビデオテープが残ってるって。
来月帰省した時に探してみよう。
下駄箱で靴を履き替えていると、バタバタと誰かの走る音が。その音は徐々に近づいてきている。
まさか……。
「市瀬さん!」
名前を呼ばれて振り向くと、一ノ瀬先輩が息切れしながら立っていた。
「先輩……っ、どうしたんですか?」
「具合悪かったって聞いて。朝も、ぐったりしてたって郁海が」
朝……そういえば、机に突っ伏してたっけ。
あれはただ、考えすぎて疲れてただけなんだけど……。話を合わせてくれたのかな。