猫目先輩の甘い眼差し
「先週剣道場の前で会った時も、ボーッとしてたし。悪化しちゃったのかなって」
剣道場前は、顔を覗き込まれた時か。
あれもただ考えすぎてただけなんだけど……。
「いえ! 少し疲れてただけなので。ふらついてるわけではないので大丈夫です」
「そう……?」
慌てて否定したら、「良かったぁ」と胸を撫で下ろした。
額にじんわり汗が浮いていて、サラサラの髪の毛が少し濡れている。
本当はピンピンしてるのに、いらぬ心配をかけてしまって申し訳ない。
「無理に話せとは言わないけど、何か困ったこととか、悩んでることがあったら遠慮しなくていいからね」
「っ、はい……」
聞き覚えのあるそのセリフ。
確か一緒に帰った時──あそこで初めて先輩にときめいたんだった。
「……ありがとうございます。では、今日はお言葉に甘えて、お先に失礼します」
「お大事に。あ、ちょっと待って」
去ろうとしたら引き止められた。
何か言い忘れたことでもあるのかな。
と思い、振り向くと。
「……よし、これでオッケー」
まるでホコリを落とすように、なぜか私の肩を優しく叩いた。
「さっき雷夜に掴まれてたから。感触、消しといた」
「あ、ありがとうございますっ」
ペコッと頭を下げ、速歩きで自転車置き場へ向かう。
触られた箇所が熱い。たった2回、ポンポンってされただけなのに。
あぁもう、最後の最後にこんなことするなんて。
それこそ……。
「のぼせちゃうよ……」