猫目先輩の甘い眼差し
理由を聞き、想像を巡らせる。
確かに……漢字は違うけど、どっちもイチノセだもんな。
顔は似てないから兄妹に間違われはしなくとも、名前を見ない限り、初対面の人からは親戚と思われるかもしれない。
毎回「違うイチノセです」って説明するのも大変だよね。
「わかりました。では、零士先輩って呼びますね」
「ありがとう。じゃあ俺は、世蘭ちゃんって呼ぶね」
目を細めた甘い笑顔を向けられて、心臓が激しく揺さぶられた。
いきなり、ちゃん付け……!
家族以外の男の人に下の名前で呼ばれるの、多分小学生ぶりだ。
特に世蘭ちゃん呼びは、幼稚園の時が最後だった気がする。
嬉しさと恥ずかしさで、心臓がくすぐったい。
「顔真っ赤だね」
「っせ、先輩こそ。顔緩んでますよ」
お互いに顔を赤らめて見つめ合っていると、私達の横を1台の車が通り過ぎていった。
ダメダメ! ここ外! しかも交差点!
いくら学校外でも、誰が見てるかわからないんだから。浮かれすぎないよう気をつけないと。
「じゃあまた明日。会えたら会おうね」
「はい」
会釈して、先輩に背を向けて自転車に乗る。
……待った。今帰ったら、その顔どうしたのってツッコまれるかもしれない。
顔の熱が冷めるまで、少し遠回りして帰路に就いたのだった。