猫目先輩の甘い眼差し
どこからかドスの利いた声が聞こえた。
「手? 何も使ってないけど」
「とぼけんな。いくらなんでも、あの数は尋常じゃない。さっさと吐け」
最後に脅すような声が聞こえて、思わず体がビクッと揺れた。
声の主は、どちらも男子。
この聞こえ具合からすると、けっこう近い場所にいるみたい。
「そんなこと言われても……マジで何もないんだって。まさか嫉妬してるの?」
「はぁ⁉」
脅しに負けじと煽るように答えたもう一方の男子。
物騒だなぁ。新学期始まったばかりなのに。仲良くしようよ。
怖いなら無視すればいいのに、どうしても耳を傾けてしまうのは──この声に聞き覚えがあるから。
それは、樫尾くんもよく知っている人物。
「……ちょっと行ってくるね」
「いってらっしゃい……」
溜め息交じりに言い残した彼の背中を見送る。
大丈夫かな……。
口喧嘩だけならまだいいけど、もしケガしてたらどうしよう。
途端に心配になり、こっそり後を追った。
「────もう、気をつけてくださいよ。動物部のツートップなんですから」