猫目先輩の甘い眼差し
校舎の陰からこっそり顔を出して様子をうかがう。
こっちに背中を向けているのが樫尾くんで、壁側にいるのが一ノ瀬先輩。
そして──。
「先輩、悔しい気持ちはわかりますけど、零士さんはズルなんかしてませんから」
「……ごめん」
樫尾くんに叱られたモデル体型のお兄さん。
おでこを出した爽やかな髪型で、凛々しい顔立ちをしている。
この人、部活代表でステージに上がってたっけ。
だけど……名前が出てこない。
一ノ瀬先輩のことで頭がいっぱいだったもんな。
なんか強そうな名前だった気がするんだけど……。
必死に記憶をたどっていると、ふと視線を逸らした彼と目が合った。
「なぁ、聞いてたのって、もしかしてあの子?」
指を差されて、一瞬にして注目の的に。
「市瀬さん! いたんだね!」
「は、はいっ」
身を隠したかったけど、一ノ瀬先輩が駆け寄ってきたので動けなかった。
「ビックリさせちゃってごめんね」
「いえ……。あの、おケガはないですか?」
「うん、大丈夫。ちょっと言い合ってただけだから」