猫目先輩の甘い眼差し
話の流れに乗って、思いきって聞いてみた。
ドキドキしながら返事を待っていると。
「3月だよ。3月2日。友達からは、3匹の猫ちゃんって覚えられてる」
怪しむこともなく、すんなり教えてくれて、胸を撫で下ろした。
3月2日。3匹の猫ちゃんの日。あとでメモしておこう。
「なんか可愛い覚え方ですね」
「あはは。市瀬さんはいつ?」
「私は9月2日です。9匹の猫ちゃんです」
「9匹⁉ 俺の3倍なの⁉ いいなぁ」
羨ましがる姿が可愛らしくて、頬が緩んだ。
今回は動物関連のことじゃなかったけど……また1つ、先輩について知ることができて良かった。
たわいもない話をしながら20分ほど歩き、別れ道の交差点に着いた。
「あのさ……何か困ったことがあったら、いつでも相談して」
去り際、呼び止めるように口を開いた一ノ瀬先輩。
大きな瞳を数秒見つめた後、恐る恐る尋ねる。
「それは……部活以外のことでもいいんですか?」
「もちろん! 勉強教えてほしいとかでもオッケーだから!」
「っ……ありがとうございます」
小さく頭を下げ、くるりと背を向ける。
優しい笑顔と気遣いに感動して、声が詰まっちゃった。
ケンカに巻き込まれたから、部長として心配してくれているだけなんだろうけど……。
ほんのわずか、一瞬だけ──不覚にもときめいてしまった。